【column】防犯①:侵入盗を招き入れるのは家主の油断

2025.01.23 | 防災・防犯・環境

生活者にとって怖いものの一つは、いわゆる「空き巣」などと呼ばれる住宅侵入盗。家の中にある大事な財産を奪われてしまい、時には家主や家族が危険な目に遭うおそれも。招かざる相手の侵入をできるだけ防ぎ、盗難被害から自分たちの身と財産を守るには、いったいどうすればよいのでしょうか。

防犯の第一歩は、まず自らの防犯への意識を高めること。住宅侵入盗は、生活者の油断を狙い、ちょっとした気のゆるみを突いて行動を起こすからです。日本防犯設備士協会認定を受けた総合防犯設備士である藤滿弘さんに、住宅侵入盗に狙われにくくするための基本となる心構えを教えてもらいました。

意外にも多い「無締まり」への侵入

住宅侵入盗の手口といえば、「サムターン回し(特殊な工具で扉内側のサムターンを回して解錠する手口)」、「合い鍵を使って」、「ドアやガラス窓を破壊して」といったところが思い浮かびますが、防犯の専門家である藤滿さんは、意外なことを口にします。

「私は福岡県を中心に活動していますが、福岡県防犯協会連合会が発行する冊子『防犯ふくおか』に掲載されたデータによると、住宅侵入被害の半数以上が『無締まり』(鍵をかけていない状態)でした。『ガラス破り』や『合い鍵』による侵入よりも手口としては多くなっています」

つまり、住人が鍵をかけ忘れて外出する、または施錠をしないまま過ごしているときに、もっとも狙われているということです。地域ごとや年別で統計をとれば、必ずしもそうではないかもしれませんが、専門家の観点からは、無締まりを狙う手口がかなり多いのは、地域や時代を問わず共通している、といえるようです。
手間のかかる手口よりも手早くできるほうを選ぶのは、侵入盗の心理として当然かもしれません。他人の家の前で、時間のかかる作業をしていては、だれかに見つかる可能性が高まりますから。

「侵入盗は、いかに短時間で仕事を終わらせるかを、常に考えています。もともと鍵を開ける必要がないのなら、彼らにとって何よりも好都合です」

無締まりによる住宅侵入盗被害はいわば、家主側が侵入盗を「誘っている」ようなものなのです。

「短時間だから」「一日だけだから」は通用しない

さらに、藤滿さんは、家主の油断が住宅侵入被害を招く危険性を指摘します。

「福岡県警察犯罪予防研究会の調べによれば、住宅侵入被害に関する家主の留守時間の内訳でいうと、『1時間以内』は10%強で、『24時間以内』が約70%となっています。つまり、空き巣被害の約7割が、丸1日以下の外出の際に起きている状況です。また、『7日以上』も約10%ですから、1時間ぐらいしか外出していなかった場合でも、1週間以上家を空けているのと、住宅侵入被害のリスクは変わらない。『短時間の外出だから大丈夫』とか『たった1日留守にするだけだから大丈夫』とはならないことを知っていただきたいです」

私たちは日々の生活のなかで、つい「ちょっとそこまで」、「すぐに戻るから」と、自分に都合よく考えて、無締まりのまま外へ出てしまうことがあります。それで、これまで運良く住宅侵入被害に遭わなかったとしても、これからもずっとそうだとはかぎりません。

「無施錠のまま外出しても、たまたま他人にそれを知られなかったから、被害に遭わずに済んだのかもしれませんが、住宅侵入盗は常に目を光らせているものと考えておいたほうがよいでしょう。侵入盗はターゲットとなる家を見つけるために、あの手この手で『絶好の仕事場』を探していますから」

瞬間的な油断で、住宅侵入被害に遭えば、金品を奪われるだけでなく、家族の安らぎの場や団らんの場を失うこともあります。また、被害に遭ったばかりに、他人を信用できなくなる人もいます。在宅している場合は、自分や家族の身の危険も生じます。無締まりは、生活者一人ひとりの心がけで防げるものです。

「それと、『無締まり』は玄関だけのことを指しているわけでありません。侵入口としてよく使われるのが、掃き出し窓(窓の底辺部が床に接している大きな窓)。何かと人目につきやすい玄関より掃き出し窓のほうが侵入盗には出入りに都合がよいわけです」

風を通すために窓を開ける、ベランダへ出て洗濯物を干すなどした後、施錠を忘れたまま外出してしまう人もいるようですが、窓錠のかけ忘れをなくすよう心がけましょう。

侵入盗はこうして「留守」を知る

住宅侵入盗は、住人の留守をどうやって知るのでしょうか。

「住宅侵入盗の多くは、目星をつけた家の下見をおこないます。その際に『インターホンを押して留守を確認する』は、侵入盗がよくやる手口。相手が在宅していたら、セールスや勧誘員などのふりをしてその場を去るわけです」

他にも以下のような手口があります。

・郵便受けに新聞や配達物がたまっていないか確認する
・夜になって灯りがともっているか、音が聞こえるか確認する
・ゴミ収集日以外の日にゴミが出ているか確認する

家主側の防犯対策としては、

・留守にする間は新聞の配達を止めてもらう
・外から確認しやすい灯りは点けたまま出かける
・ゴミ収集日にゴミを出す

などが挙げられます。

「また、侵入盗が犯行をあきらめる理由として少なくないのが、『近所の人にあいさつをされた』です」

都市圏では時代とともに、いわゆる「ご近所付き合い」が減っている傾向にあるようですが、人の目を気にする侵入盗には、効果があります。親しくしているご近所がいるのなら、留守にする際にひと声かけておくのもよいでしょう。

次回「防犯②」では、侵入盗に狙われにくい家にするための「侵入防止4原則」について触れます。

取材ライターのつぶやき

侵入盗をおこなった犯罪者と被害者。どう考えても、悪いのは加害者のほうですが、「生活者個々の防犯に対する意識の不足が、侵入盗犯罪が起きるきっかけにもなっている」という事実は、新たな学びでした。「窓を開けっ放しにしない」「わずかな時間でも無施錠にしない」は、今のご時世では当たり前のようでいて、徹底されていないから、よからぬことを考える者につけこまれる現状がある。犯罪撲滅のために、皆で意識を変えていきたいものです。

今回のSpecialist 公益社団法人日本防犯設備士協会認定 総合防犯設備士
藤滿 弘(ふじみつ ひろむ) さん

特定非営利活動法人福岡県防犯設備士協会事務局長。
総合防犯設備士の資格のほか、福岡県警察と特定非営利活動法人福岡県防犯設備士協会が委託する「防犯設備アドバイザー」の資格を保有。「安全・安心なまちづくり」を目指し、講演、テレビ出演、防犯診断、防犯設備の設置指導等を通じて、生活者の防犯意識向上のための活動をおこなっている。


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